三元豚という言葉を聞くと、ブランド豚の一種だと思われがちですが、実は日本で流通する「ふだんの豚肉」の大半が三元豚です。三元豚とは、3種類の豚品種を重ねて交配した交雑種のこと。肉質や発育を安定させる目的で生産され、外食から家庭まで幅広く使われています。

本記事では、三元豚の仕組みや使われる6品種の特徴、日本で主流の組み合わせ、ブランド豚との違い、買い方・調理のコツまで、実生活で役立つ観点でまとめます。
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三元豚は3種類の豚の品種を掛け合わせたもの
三元豚の作り方はシンプルです。まず2つの品種を掛け合わせ、そのメスに3つ目の品種のオスを交配させます。こうして生まれた子豚が三元豚。各品種の長所を組み合わせることで、肉量・肉質・発育のバランスを狙います。
三元豚の交配イメージ(例)
1. ランドレース × 大ヨークシャー → メス誕生
2. そのメス × デュロック → 三元豚として出荷へ
この二段階交配により、ばらつきを抑えた安定供給が可能になります。養豚現場では、飼料・温湿度管理と合わせて、毎日の改善が続けられています。
三元豚に用いられる品種は主に6つ
三元豚の交配に使われる代表的な品種は次の6つです。アルファベット表記は組み合わせを示す記号としてよく使われます。
ランドレース(L)
デンマーク原産。白く胴長で発育良好。赤身が多く、繁殖性も高いことからベースに採用されやすい品種です。
大ヨークシャー(W)
イギリス原産。体格が大きく白色。加工用にも使われ、赤身と脂のバランスに優れます。Lと並んで主役級。
中ヨークシャー(Y)
小型のヨークシャー。昭和初期の日本で普及していた歴史ある品種。脂の香りに特徴が出ることもあります。
バークシャー(B)
黒毛が特徴。「黒豚」と呼ばれることが多く、日本で“黒豚”と表示されるブランドの多くはバークシャーの純血系です。
ハンプシャー
イギリス原産でアメリカ改良。筋肉質で締まった肉質が持ち味。日本での採用は多くありません。
デュロック(D)
アメリカ産。発育が早く肉質が良いのが強み。飼育効率の面でも交配に好まれます。
日本で多い組み合わせはLWD
主流:LWD(L × W × D)
「ランドレース × 大ヨークシャー × デュロック」。
出荷量が多く、歩留まり・柔らかさ・安定性のバランスが良い王道の三元豚です。
他にも「LWY」「LWB」など現場や地域で様々な最適解が検討されています。目的(肉量、脂の質、病性への強さ等)に応じ、配合は柔軟に組み替えられます。
なぜ3種類の豚を交配させるのか?
- 肉質の向上:長所を掛け合わせることで、柔らかさ・ジューシーさ・香りを狙う
- 品質の安定化:単一品種だと出やすいばらつきを抑え、均一な規格に近づける
- 生産性の改善:発育の早さ・繁殖性・飼料効率など経営上の指標を底上げ
- 血統の濃化を回避:世代を跨いだ交配でインブリードのリスクを抑える

三元豚と「ブランド豚」はどう違う?
ブランド豚は、飼育地・飼料・血統管理・飼育方法などで差別化し、独自の基準で名乗る地域銘柄・生産者銘柄の総称です。一方、三元豚は交配の仕組みそのものを指す言葉。ブランド豚のなかにも三元豚設計のものは多数あります。
項目 | 三元豚 | ブランド豚 |
---|---|---|
意味 | 3品種交配の仕組み | 銘柄(産地・飼育法など) |
範囲 | 日本の一般的な流通に広く存在 | 限定条件を満たす銘柄のみ |
狙い | 品質・歩留まり・安定供給 | 個性・付加価値・ストーリー |
ポイント
「三元豚=ブランド」ではありません。
三元豚設計のブランド豚もある、という関係です。
スーパーでの表示の見方と買い方のコツ
- 表記:「三元豚」「LWD」などの表示があれば、三元豚設計の可能性が高いです。
- 色と脂:国産は脂が白く甘みが出やすい傾向。輸入はあっさり寄りで価格も抑えめ。
- 消費・賞味期限:旨み重視なら消費期限に余裕のあるものを。ドリップが少ないパックを選ぶと失敗しにくいです。
- 厚み:とんかつ・ソテーは厚め、しゃぶしゃぶは薄めと用途に合わせて選ぶと食感が決まります。
部位別のおすすめ調理
- ロース:とんかつ、ポークソテー。脂の甘みとコクを活かしたい部位。
- 肩ロース:生姜焼き、煮込み。赤身と脂の層があり、噛みごたえと旨みのバランスが良い。
- もも:カツ、ロースト。赤身が中心でさっぱり。下味やソースで化けます。
- バラ:角煮、焼きそば、野菜炒め。脂の旨みで全体をまとめます。
- ヒレ:ヒレカツ、ソテー。脂が少なく柔らかい。火入れは短時間で。

保存・下ごしらえの基本
- 冷蔵:ドリップを拭き、ラップ+保存袋で空気を抜く。2~3日以内を目安に使い切り。
- 冷凍:1回分ずつ薄く平らに小分け。-18℃で1か月程度。解凍は冷蔵庫でゆっくり。
- 下味冷凍:生姜焼きだれ・味噌だれなどに浸して凍らせると、解凍後すぐ調理でき時短に。
よくある質問(FAQ)
Q. 三元豚は安全面で問題ありませんか?
A. 一般的な流通基準で衛生管理されます。購入後は適切に冷蔵・冷凍し、十分な加熱でお召し上がりください。
Q. 三元豚は味が弱いですか?
A. 個性的な香りを打ち出すブランド豚に比べると穏やかですが、料理全体のバランスが取りやすいのが強みです。下味・火入れで十分おいしく仕上がります。
Q. LWD以外のおすすめは?
A. 現場の狙い次第です。脂の質を重視するならB(バークシャー)を絡める設計など、地域・生産者の工夫があります。
三元豚の知識を日常に活かす
ここまで、三元豚が「3品種交配の設計」であること、代表6品種の役割、日本で主流のLWD、ブランド豚との違い、買い方・部位別の調理・保存まで実用面を踏まえて解説しました。三元豚は、安定した品質で日々の料理を支える頼れる存在です。表示や部位、厚みを少し意識するだけで、家庭のメニューが一段とおいしく決まります。
今日の使い分けヒント
・ジューシーに食べたい:ロース厚切りでとんかつ
・さっぱり&ヘルシー:もも薄切りでしゃぶしゃぶ
・ご飯が進む味:肩ロースで生姜焼き
